食品成分有効性評価及び健康影響評価プロジェクト解説集
2004/12/09

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アシタバについて

永田 純一(国立健康・栄養研究所 食品機能研究部)


 アシタバ(Angelica keiskei)は、房総半島、三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島および紀伊半島東南の太平洋岸に自生する日本固有のセリ科の大型多年性植物です(図1)(1)。その名が「今日その葉を摘んでも明日には新しい葉が出てくる」ということでついたと言われるほど生育力、生命力が旺盛な植物です。このような背景もあって漢字では明日葉と表記されるものと思われます。原産地は八丈島と考えられています。江戸時代には、中国の明朝時代に編集された薬草に関する事典『本草綱目』にも登場しています。日本では江戸中期、貝原益軒によって完成された『大和本草』にも、八丈島で栽培されている滋養強壮によい薬草として紹介されたり、「アシタグサ」「ハチジョウソウ」などと呼ばれ痘瘡の治療に用いられていました。また、乳牛の牧草としても栽培され、乳の出をよくし、乳質を高めるといわれます。今日でも、民間療法として、利尿、強壮、催乳などの目的で用いられていますが、このような効果はこれまでの経験や口承などに基づいて広まったと考えられます。

 アシタバは他の主な野菜類と比較して、栄養素に富む野菜であると思われます(表1)。特に、ビタミン類、ミネラル分が豊富であると共に食物繊維を豊富に含んでおり栄養価の高い食品と考えられます。また、普通の植物にあまり含まれていないビタミンB1およびB2を含み、葉緑素が多いのも特徴です。しかし、アシタバに含まれる成分として特に注目される成分は、茎、葉、根の分泌組織(油道)より滲出する黄色の組織液(黄汁)(図2)中に含まれるポリフェノールの一種であり、抗菌、抗酸化作用をもっているといわれているカルコン類と思われます。

 馬場らは(2)、長年の研究から八丈島産のアシタバ(A. keiskei Koidzumi)の根に含まれる黄汁成分の解析を行い、これまでに約10種類のカルコン類を単離、同定しています。特に、キサントアンゲロールや4-ヒドロキシデリシン(図3)の生理効果に関してこれまで科学論文として報告しています。それらの効果は、抗菌活性(3)や血管拡張作用(4)、抗潰瘍(5)および胃酸分泌抑制、抗炎症(6)あるいは血液凝固(7)に関連する効果など様々です。近年では、腫瘍細胞の増殖を抑え、転移を抑制する効果があることが報告されており(8,9)、アシタバカルコンには様々な生理機能があることが知られています。

 近年、以上に示したような様々な生理機能に加えて、黄汁中に含まれるカルコン類の新たな機能としてセルライト解消やダイエットを中心とした機能に関心が集まっています。また、これらの機能を標榜する健康食品が広く国内市場に出回っています。
 セルライトは、皮下組織中の血行不良や、脂肪の代謝不良が原因で、肥大化した脂肪のまわりに老廃物や水分が溜まり、大きな塊となったものです。肌の表面がオレンジの皮(orange peel)のように凸凹の状態をいいます(10)。
 アシタバカルコンは、血行不良となったセルライト部分の血行を血管拡張作用によって改善し、脂肪の代謝を促すことでセルライトを解消すると考えられています。しかし、これまでセルライトを形成する組織がアシタバカルコンによって解消するという報告は行われていません。また、血管拡張が起こり組織形態に改善が見られても脂肪分解の亢進が蓄積脂肪の解消には不可欠と思われます。これは一般的な肥満の解消にも関連するメカニズムですが、脂質代謝が亢進するデータはこれまで示されていないのが現状です。従って、セルライトの解消やダイエットに関連する作用機序の提示は今後の課題であり、アシタバカルコンの効果を裏付けるためにも必要と思われます。

 これらの他にも口承事例として、肝臓機能の改善、コレステロール値の低下、アトピーの改善、花粉症の解消、便秘の改善、貧血の予防、難聴の解消、かすみ目の解消、髪が黒くなった、肌がすべすべして、シミが消えた、お酒を飲んでも悪酔いしない、血糖値の低下など、巷ではあたかも万能薬のような話しになっています。しかし、これらの事例の信憑性は定かでなく、効果に関しては十分注意が必要と思われます。今後詳細な調査や科学的検証が必要と考えられます。

 以上アシタバについて紹介しました。アシタバは栄養素に富み、これまでの食経験から安全上大きな問題はない食品と考えられますが、今日健康食品で標榜されている生理機能や口承により広まった生理機能にはまだ科学的に証明されなければならない多くの問題点が残されていると思われます。これまでの研究でアシタバの生理機能に関するいくつかの科学的根拠は示されていますが、全ての口承事例を証明するにはまだ多くの時間が必要かもしれません。今後の研究が期待される食品と思われます。

引用文献

1.Kozawa M, Morita N, Baba K, Hata K. Chemical components of the roots of Angelica keiskei Koidzumi. III. The structure of a new dihydrofurocoumarin (author's transl). Yakugaku Zasshi. 98: 636-638 (1978)

2.馬場きみ江、谷口雅彦 アシタバの健康効果と利用法 Food Style 21 7(5): 68-76 (2003)

3.Inamori Y. Baba K, Tsujibo H. Taniguchi M. Nakata K. Kozawa M. Antibacterial activity of two chalcones, xanthoangelol and 4-hydroxyderricin, isolated from the root of Angelica keiskei KOIDZUMI. Chem Pharm Bull 39(6): 1604-1605 (1991)

4.Matsuura M. Kimura Y. Nakata K. Baba K. Okuda H. Artery relaxation by chalcones isolated from the roots of Angelica keiskei. Planta Med 67: 230-235 (2000)

5.Murakami S. Kijima H. Isobe Y. Muramatsu M. Aihara H. Otomo S. Baba K. Kozawa M. Inhibition of gastric H+, K(+)-ATPase by chalcone derivatives, xanthoangelol and 4-hydroxyderricin, from Angelica keiskei Koidzumi. J. Pharm. Pharmacol. 42: 723-726 (1990)

6.中田功二、馬場きみ江 Natural Medicines, 55: 32 (2001)

7.Fujita T. Sakuma S. Sumiya T. Nishida H. Fujimoto Y. Baba K. Kozawa M. The effects of xanthoangerol E on arachidonic acid metabolism in the gastric antral mucosa and platelet of the rabbit. Research Communications in Chemical Pathology and Pharmacology 77(2): 227-240 (1992)

8.Kimura Y. Baba K. Antitumor and antimetastatic activities of Angelica keiskei roots, part 1: Isolation of an active substance, xanthoangelol. Int. J. Cancer, 106: 429-437 (2003)

9.Kimura Y. Taniguchi M. Baba K. Antitumor and antimetastatic activities of 4-hydroxyderricin isolated from Angelica keiskei roots. Planta Med, 70: 211-219 (2004)

10.Rossi A. B. R. Vergnanini A. L. Cellulite: a review. JEADV. 14, 251-261 (2000)

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