食品成分有効性評価及び健康影響評価プロジェクト解説集
2004/04/20

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発芽玄米とギャバについて

平原 文子 (国立健康・栄養研究所 食品機能研究部)


1. ギャバとは

 古くから、哺乳類動物の脳にはγ-アミノ酪酸(ガンマ-アミノブチリル酸; GABA;ギャバ)が多く含まれていることが知られていました。1950年に哺乳類動物脳から抽出されてから、多くの研究がなされ、中枢神経系における代表的な抑制系の神経伝達物質であることが明らかにされました(1)。
近年では抑制神経伝達物質としての作用の他に、他の生理作用や類似化合物の研究がなされています。また健康食品市場においても「発芽玄米」の有効成分の一つとして注目を集めています。
 ギャバはアミノ酸の1種で、脊椎動物に存在するばかりでなく植物にも存在することが知られており、漢方でも棕櫚(シュロ)や黄ぎ(おうぎ)が高血圧症の改善物質としても用いられてきました。
人間においては、脳への酸素供給量を増加させ、抗痙攣作用、抗不安作用、脳の代謝機能亢進などの神経伝達物質として重要視されています。
 神経細胞の中では主としてグルタミン酸から作られ、コハク酸(またはコハク酸セミアルデヒド)を経てクエン酸回路に入ります(図1)(2)。



図1 γ‐アミノ酪酸経路

2. ギャバの生理作用

 ギャバは刺激に応じて放出され、神経伝達作用だけでなく、血圧上昇抑制作用、精神安定作用、腎・肝機能活性化作用、抗がん作用、アルコール代謝促進作用、消臭効果作用、肥満防止作用など、岐に渡って報告されています(表1)。すべての作用について科学的に十分に証明されているわけではありませんので、今後の研究で明らかになることが期待されています。

A 記憶改善作用
 脳の情報伝達は、興奮と抑制がバランスを保つことで成り立っており、アミノ酸系の伝達物質が重要といわれてます。興奮性機能にはグルタミン酸が抑制性機能にはギャバがその代表として知られています。
 脳機能の諸症状の改善作用としては、脳への酸素の供給量を増加させ、脳および脳細胞代謝亢進と活性化をするものです。また、脳障害の後遺症(脳卒中後遺症や脳動脈硬化症による頭痛、耳鳴り、記憶障害)、意欲低下の改善作用、頭部外傷後遺症による頭痛の治療、アルツハイマー型痴呆症の予防・改善効果、ボケ防止、長期記憶促進作用、学習能力増強にも有効であるとする報告がなされています(3)。

B 精神安定化・鎮痛作
 精神安定化作用の研究では、更年期障害、自律神経障害や初老期の不眠症に対して高い改善効果を示し、長期的に効果が持続することも観察されています(4、5)。

C 血圧正常化・心疾患予防作用
 血圧は色々な要因で変動し、健康時には常に正常に保つように調節されています。高血圧モデル動物を用いた実験で発芽玄米の投与により血圧正常化効果が見られており(6,7)、人についても臨床試験で血圧を下げる効果が観察されています(8)。

D 内臓機能の活性化・その他抗がん作用
 腎臓の血流量を増加させたり利尿作用の改善(9)、肝臓や膵臓の機能改善、脂質代謝、便秘症状、肩こり、耳鳴りなどの改善も報告されております。
また、大腸癌予防にも有効とする報告もありますが、これらの研究では発芽玄米等を用いた、純粋なギャバだけによる投与実験だけではないため、ギャバの作用だけでなく、他に含まれている抗酸化物質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの共存物質による作用によることも考えられます。

3. 発芽玄米とその栄養価

 最近ではギャバを多く含む発芽玄米が健康食品の一つとして人気があります。
 玄米は栄養分を蓄えて休眠状態を保ちながら発芽時期を待っている種子で、胚芽に必要なビタミンやミネラルなど豊富に含む栄養価の高い食品です。玄米に水分を浸透させ、水分や温度などの条件が整うと胚芽中の酵素が活性化し、胚乳に貯えられているデンプン、タンパク質、脂質が分解され、デンプンは発芽のエネルギーに使われます。0.5〜1mm程度発芽した段階で、これ以上発芽しないように処理したものが発芽玄米です。この時、グルタミン酸からギャバが生成されます。その含量はもとの玄米に含まれている量の3-5倍にも増加します。また、発芽処理によって、玄米中では吸収されにくかった、鉄、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などのミネラル類の吸収も良くなります。また、アミノ酸は旨み成分へ、デンプンは甘味成分へと変化します。

4. ギャバを多く含む食品と製品

 日本茶や米類をある条件下で保存すると、ギャバ含量が顕著に増加します。近年では大麦(10)、カボチャ、醗酵食品(チ−ズ、味噌、しょうゆ)ギャバロン茶、温室メロン、漬物(しば漬、すぐき、キムチ、ぬか漬)、ヨ−グルト、豆腐、粥などのあらゆる食品で、ギャバ含量を増加させるための様々な製造法の研究が進められています。またギャバと様々な食品の組み合わせや、種々の形態のサプリメント(粒状やタブレット)なども製造され、ますますギャバ商品の多様化がなされています。

5. 医薬・治療 

 パーキンソン病及びてんかん患者の髄液中ギャバ量が減少していることが認められたことなどからギャバの投与が期待され、多くの研究が実施されてきました。すでに国内でもギャバは脳代謝を促進する医薬品として製品化されており、脳梗塞、脳動脈後遺症による頭痛、耳鳴り、意欲低下などの脳血管障害の諸症状改善・治療に用いられています。
 

6. 安全性と今後

 ギャバの安全性についての研究は余りありませんが、大量のギャバを経口摂取しても血液・脳関門をほとんど通過しない(2)ことなどから、比較的安全な物質とされています。しかし、何らかの疾患がある場合に、誤った自己の判断でギャバのみを摂取しても十分な治療や改善の効果は期待できないばかりか病状を悪化させてしまうことにもなりかねません。必ず医師の診断を受け、指示に従うことが大切です。利用する場合はバランスのよい食事を適切に摂った上で、補助的に摂取することが望まれます。
 近年ではギャバの生理作用解明はもちろんですが、種々の食品についてギャバを富化させる研究や植物中に蓄積させた食品の加工・製造開発技術が進み、実用化されています(11,12)。さらに、それらのギャバを多く含む食品と他の成分を多く含む健康食品との混合した製品が健康食品市場で好評を得ていますが、それらの成分とその作用機序などについては不明なものがほとんどです。これらの成分や他に含まれている微量成分の存在や健康維持・増進への有効性が明らかになることが期待されるところです。


引用文献

1) 佐藤公道,野村靖幸(1994)廣川ニュ−ロサイエンス4神経伝達物質受容体・構造と機能:廣川書店103
2) 生化学辞典 東京化学同人(第3版)74-75(1998)
3) 茅原 紘,杉浦友美(2001)近年のGABA生理機能研究―脳機能改善作用,   高血圧作用を中心に―.食品と開発 36,4-6.
4) Petty F., Kramer GL. and Dunnam D., Rush AJ.(1990)Plasma GABA in mood disorders. Psychopharmacol Bull 26, 157-161 [PMID:2236451]
5)岡田忠司,杉下朋子,村上太郎,村井弘道,三枝喜代,堀野俊郎,小野田明彦,梶本修身,高橋 励,高橋丈夫(2000) γ-アミノ酪酸蓄積脱脂コメ胚芽の経口投与における更年期障害及び初老期神経障害に対する効果.日本食品科学工学会誌 47,596-603
6) 大森正司,矢野とし子,岡本順子,津志田藤ニ郎,村井敏信,樋口満(1987)  嫌気処理緑茶による高血圧自然発症ラットの血圧上昇抑制作用. 日本農芸化学会誌61,1449-1451.
7) 辻啓介,市川富夫,田辺伸和,阿部士朗,樽井庄一,中川靖枝(1992)紅麹抽出物とγ−アミノ酪酸の高血圧自然発症ラットにおける血圧降下作用 栄養学雑誌 50,285-291
8)東 光平,佐野義和,堀川正之,野本震作,千葉友司,古屋隆一郎,関 太助,坂井達男,若月 透(1959)本態性高血圧患者に対するγ‐アミノ酪酸の使用経験.臨床内科小児科 14,1265-1268.
9)藤原元始,大森義仁,吉利和,高木敬次郎,上條一也監訳(1998)腎臓の水分保持機構に作用する薬物:グッドマン・ギルマン薬理書,第7版,p.1117-1131.廣川書店,東京.
10) 中井玲子,野村啓一,芦田均,団野源一(2001)発芽大麦中のアンギオテンシン転換酵素阻害物質の発現について 日本農芸化学会2001年大会講演要旨集163
11)中村寿雄,松林恒夫,蒲池加寿子,長谷川節,安藤洋太郎,大森正司 (2000) γ-アミノ酪酸(GABA)富化クロレラは高血圧自然発症ラット(SHR)の血圧上昇を抑制する.日本農芸化学会誌 74,907-909.
12)土田 隆,益子研土,山田勝彦,平塚秀雄,島田孝男,坂垣雪絵,藤沼秀光,鮫島浩二,中村寿雄,長谷川節,松林恒夫 (2003)血圧が高めの健常者および軽症高血圧者に対するγ-アミノ酪酸高含有クロレラの効果.日本栄養・食糧学会誌 56, 97−102. 


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