地図2
イタリア北部(地図2赤*)の2地域でチクングニア熱が2007年7月より流行した。8月に入り、患者は急増し始めた。イタリア国内の媒介蚊は、わが国にも生息するヒトスジシマカである。イタリア国内には、インドからの輸入感染症患者により持ち込まれた可能性が考えられる。→イタリアにおける流行は334例の疑い例のうち284症例について実験室診断が実施され、204例はチクングニアウイルス感染が確認された。死亡例が1例であった
<西インド洋諸国>
チクングニアウイルス形態
<Vero細胞で増殖したChikungunya virus粒子>
撮影:大阪医科大学微生物学教室
<ウイルスについて>
 チクングニアとは、アフリカの現地語で「罹患した関節痛を表現する(かがんで歩く)」言葉で、チクングンヤあるいはチクングニアどちらが現地語の発音に近いかは不明なため、ここでは"チクングニア″を使用することとする。
 チクングニアウイルスはトガウイルス科アルファウイルス属に分類されるRNAウイルスで、蚊によって媒介されるウイルスである。トガウイルス科はアルファウイルス属とルビウイルス属よりなり、ルビウイルス属のウイルスである風疹ウイルスは日本人にも馴染みがあるウイルスである。しかし、風疹ウイルスは飛沫感染によりヒトからヒトに伝染する。
 チクングニアウイルスは1953年にタンザニアで初めて分離され、以来アフリカやアジアでその流行が報告されている。その主たる媒介蚊はヤブカ属の蚊で、主としてネッタイシマカやヒトスジシマカである。ウイルスは直径70nmのエンベロープを有する球状粒子である。
 チクングニア熱は、発熱・関節炎・発疹の3主徴が特徴であり、時に出血傾向を呈するため、鑑別疾患としてデング熱あげられる。この感染症は、わが国では感染症法で4類感染症全数把握疾患に規定されている。また検疫法でも検疫感染症として収載されている。

<最近の流行>
2005年初頭にコモロ(Comoro)諸島で流行が発生した。その後、ウイルスはインド洋に位置する他の島国(モーリシャス:Mauritius, レユニオン:Reunion, セーシェル:Seychelles, マヨット:Mayotte)などに拡大し流行した(地図参照)。レユニオン島では、2005年の3月から2006年の3月までで24万人以上の患者が発生した。この流行では多くの重症例が発生し、死者237人が報告された。神経症状(脳症)肝炎症状を呈する症例が報告されている。2006にはインド西部、スリランカでも流行をみており、香港、台湾、米国などからも輸入症例が報告されている。


<臨床症状>
潜伏期間は3〜12日、発熱と関節痛は必発であり、発疹は8割程度に認められる。関節痛は四肢(遠位)に強く対称性で、その頻度は手首、足首、指趾>膝>肘>肩の順であり、関節の腫脹を伴う場合もある。関節痛は急性症状が治まっても、数ヶ月から数年にわたって持続することがある。そのほか主要な症状としては、全身倦怠・頭痛・筋肉痛・リンパ節腫脹である。また出血傾向(鼻出血・歯肉出血)や悪心・嘔吐をきたすこともある。

<血液所見>
リンパ球減少、血小板減少が認められる。

<実験室診断>
病原体診断:ウイルス分離、ウイルス遺伝子の検出
(通常血液から分離するが、神経症状を呈した場合は髄液からも検出できる。)
血清診断:特異的IgM抗体検出(IgM 捕捉ELISA)
中和抗体価測定(ペアー血清による抗体上昇を確認する)

<予防および治療法>
実用化されたワクチンは無い。特異的な治療はなく対症療法。
予後は比較的良好であるが、死にいたる場合もある。


チクングニア熱 -Chikungunya fever -
2015/10/20更新







    
チクングニア熱は平成23年2月1日をもって感染症法(4類感染症全数把握疾患)および検疫法に追加されました。
米国フロリダで、チクングニア熱が発生したことが公表されました(2014/7/17)!!
南米、太平洋島嶼国にも流行が波及しています(2015年)



2015年(9月末現在)
輸入症例報告数 感染推定地 発病月 報告地
1 コロンビア 1 東京都
2 ポリネシア(仏領) 1 東京都
3 ミクロネシア 3 三重県
4 クック諸島(ニュージーランド) 2 三重県
5 クック諸島(ニュージーランド) 3 三重県
6 インドネシア(バリ島) 5 東京都
ボリビア 5 東京都
インド 6 兵庫県
ソロモン諸島 6 東京都
10 ホンジェラス 6 茨城県
11 メキシコ 6 東京都
12 グアテマラ 9 埼玉県
13 ニカラグア 9 広島県
14 インド 9 大阪府
2014年 
輸入症例報告数 感染推定地 発病月 報告地
1 シンガポール 2 神奈川県
2 トンガ王国 3 三重県
3 インドネシア(バリ島) 東京都
4 インドネシア(バリ島) 2 東京都
5 ミャンマー 5 大阪府
6 ドミニカ 6 埼玉県
7 インドネシア(ジェパラ 7 奈良県
8 インドネシア(ジャカルタ) 8 岐阜県
9 インドネシア 千葉県
10 ジャマイカ 9 京都府
11 ガイアナ 10 東京都
12 ジャマイカ 11 東京都
13 仏領ポリネシア(タヒチ) 12 千葉県
14 仏領ポリネシア(タヒチ) 12 千葉県
15 サンマルタン島 12 静岡県
16 コロンビア 12 東京都
2013年
1 フィリピン 1 大阪府
2 インドネシア 2 千葉県
3 インドネシア 3 東京都
4 インドネシア(バリ島) 3 神奈川県
5 インド 2 東京都
6 インドネシア 2 愛知県
7 インドネシア(バリ島) 4 兵庫県
8 インドネシア(来日) 6 千葉県
9 インドネシア 7 東京都
10 カンボジア 8 千葉県
11 フィリピン 9 千葉県
12 インドネシア(バリ島) 茨城県
13 フィリピン 11 奈良県
2012年 
1 パプアニューギニア 6 神奈川
2 カンボジア、タイ 7 千葉
(詳細へ)
3 カンボジア 7 福岡
(詳細へ)
4 フィリピン 7 千葉
(詳細へ)
5 フィリピン 9 東京
(詳細へ)
6 カンボジア 9 東京
(詳細へ)
7 インドネシア 10 東京
8 インドネシア 10 神奈川
9 インドネシア 11 岐阜
10 スリランカ 11 東京
上記4症例はいずれもウイルス遺伝子を検出した。
フィリピンでは、マニラ市内および南のラグナ、バタンガス州
で患者を確認している(フィリピンRITMからの情報)7月現在。

<中国広東省でのチクングニア熱の流行>
チクングニア熱流行 in 中国広東省2010_EID

<フランスでチクングニア熱が国内発生>
2010
924日にヴァール県のフレジュス(Frejus)で、チクングニア熱に現地で感染した症例が初めて確認されました。この患者は12歳女児で、最近フランス本土以外に旅行したことはなく、9月18日発熱、関節痛、皮膚発疹、全身倦怠感で発症した。この1例目の周囲で、チクングニア熱に罹患した他の症例の有無について積極的な調査を行ったところ、第2の地域感染例が925日に診断されました。


ミャンマーからの輸入症例の後、ミャンマーでチクングニア熱が流行していることが確認されました。
台湾では空港のFever screeningでインドネシアからの輸入症例が2010年になってすでに3例報告されています。

4例目の詳細は、ProMedを参照ください(Archives No.20090204.0494,Subject:Chikungunya: Japan ex Malaysia)
◎マレーシアの2008年の患者数は4,271名(地図1参照)、2009年は
5430人の患者が報告された。2010年もSarawak州で流行が続いている。
◎シンガポール(Ministry of Health)によれば、2009年第52週までで、チクングニア熱患者は
351人の患者が報告されている。
◎タイでは、2009年7月までで、
34,805人のチクングニア熱患者(疑い例を含む)が報告されている。タイのプーケットでは2009年の前半で、確定例は2155である(by Phuket Public Health Office)。プーケットからベルギーへの輸入症例(4月)が報告されている(Eurosurveillance 14(25)1-2,25 June 2009)

     チクングニア熱日本人輸入症例について   ウイルス遺伝子検出法へ  当室関連文献へ  媒介蚊対策ガイドライン

2011年
輸入症例報告数 感染推定地 発病月 報告地
1 インドネシア
(バリ)
1 香川県
2 インドネシア 5 宮崎県
3 インドネシア 6 愛知県
4 インド 8 愛知県
4 インド 8 大阪府
5 インド 10 神奈川県
6 インド 12 千葉県
ボリビア 5 東京都
2010年
輸入症例報告数 感染推定地 発病月 報告地
1 インドネシア 2 東京都
2 インドネシア 3 京都府
3 インドネシア 9 東京都
2009年
1 マレーシア 1 兵庫県
2 インドネシア 3 東京都
3 インドネシア 5 東京都
4 インドネシア 5 千葉県
5 インドネシア 5 東京都
6 マレーシア 5 東京都
7 インド 7 長崎県
8 タイ 9 東京都
9 インドネシア 9 東京都
10 ミャンマー 12 神奈川県
2008年
1 インド 8 大阪府
2 インドネシア 9 東京都
3 インド 10 東京都
2006年
1 スリランカ 11 東京都
2 スリランカ 12 新潟県
※年月は発病月、都道府県は受診医療機関所在地を示している。
2009年の6*はH21年6月時点で関節痛が持続するため受診した。
症例7は、長崎大学熱帯医学研究所にて検査診断された。

インドからの輸入例(3例目)へのリンク

平成18年度希少感染症診断技術研修会発表資料
講演資料No1(2007/2/15)


































































チクングニア熱は非常に強い関節痛をきたし、腫脹を伴うこともしばしばです。

  
↑The photographs were provided by Dr. R. SajithKumar


1当室からのチクングニアウイルスに関する最初の英文論文が掲載されました。
Lim CK, Nishibori T, Watanabe K, Ito M, Kotaki A, Tanaka K, Kurane I, Takasaki T.
Chikungunya virus isolated from a returnee to Japan from Sli Lanka: isolation of two sub-strains with different characteristics.
Am J Trop Med Hyg. 2009 Nov;81(5):865-8.



2本邦で確認されたチクングニア熱輸入感染症2例について


【症例1】患者は、30代女性、スリランカに在住する日本人女性で、1117日に発熱、関節痛などで発病し、現地医療機関でチクングニア熱あるいはデング熱であると診断されたが、病原体診断あるいは血清診断による確定診断は実施されなかった。軽快後1211日、日本に帰国したが、関節痛が持続するため東京都内医療機関を受診し、国立感染症研究所において抗体検査の結果、デングウイルスに関するIgM抗体、IgG抗体は陰性でデングウイルス感染は否定され、チクングニアウイルスに対する特異的IgM抗体陽性、中和抗体陽性であり、チクングニア熱と確定診断した。患者は平成19年1月初旬、在住するスリランカに戻った。

【症例2】患者は、50代女性。日本在住の日本人女性。平成18年11月27日から12月3日まで、スリランカに渡航。スリランカでは、渡航後まもなく、数ヶ所を蚊に刺された。帰国後の12月4日より全身倦怠感が増悪し、12月5日に40度の発熱、関節痛を認め、日本国内の医療機関に受診し、入院した。入院中に鼻出血、皮疹の症状も出現した。対症療法を行い、症状は改善して退院した。国立感染症研究所における抗体検査の結果、デングウイルス感染は否定された。チクングニアウイルス遺伝子の検出同定、
ウイルス分離及び同ウイルスに対する特異的IgM抗体陽性、中和抗体陽性であり、チクングニア熱と確定診断した。患者は、退院後は軽度の全身倦怠感が残存していたが、現在は回復している。 なお分離ウイルスの遺伝子解析の結果、レユニオン島の分離株とほぼ一致した。



<チクングニアウイルス遺伝子検出法>

TaqMan用プローブ、プライマー
Probe: Taq-Chik638P:FAM-TACCAGCCTGCACYC-MGB-3’
Primer(F)Taq-Chik607F10849GCR CCM TCT KTA ACG GAC AT
Primer(R)Taq-Chik672R10894):GCC CCC RAA GTC KGA GGA R
現在流行中のレユニオン株に対して、本法の検出限界は0.2pfu/tubeです。
反応液組成と反応条件は、ウエストナイルウイルスの場合と同様です。WNV検査マニュアルを参照してください。

<通常PCR用>
Chik10294sACG CAA TTG AGC GAA GCA CAT
Chik10573cAAA TTG TCC TGG TCT TCC TG
AccessQuick RT-PCR Master Mixを使用しています。以下がその条件です。
Master MIX
H2O17.0ul
AccessQuick Master Mix 2x25.0ul
Rrimer F(10pmol/ul)1.0ul
Primer R(10pmol/ul)1.0ul
RTase: 1.0ul(5U)
Sample RNA                      5.0ul  
Total                               50.0ul

45 x 45min
92 x 2min
      
[1]92 x 1 min
[2]53 x 1 min    [1]→[2]→[3]を35-40 cycle
[3]72 x 1 min
      
72 x 10 min
      
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