急性散在性脳脊髄炎(ADEMacute disseminated encephalomyelitis)Q&A

ADEMとMS 多発性硬化症との鑑別

Q1:急性散在性脳脊髄炎(ADEM)とはどんな病気ですか?
A1:ウイルス感染後やワクチン接種後に生じるアレルギー性の脳脊髄炎です。一般的に単相性の経過をとりますので原則的に再発はしません。中枢神経系の細胞は、基本的に神経細胞(ニューロン)とグリア細胞(神経膠細胞)から構成されています。ニュ−ロンは、核を持つ細胞体、そこから延びている1本の軸索(シグナル伝達を担う)、複数の樹状突起からなります。ニュ−ロンには、絶縁体の働きをするミエリン(髄鞘:電気のコードを想像してください)で軸索が囲まれている有髄繊維とミエリンのない無髄神経線維があります。大脳内部は大部分が有髄神経線維からなる白質で満たされています。有髄神経線維のミエリンがなくなる病気を脱髄疾患といい、ADEMは炎症性脱髄疾患です。多くの場合、白質の静脈周囲、もしくは灰白質の一部に多発性の炎症性脱髄を認めます。原因となる物質の一つとしては、ミエリンベーシック蛋白があげられます。

ミエリンベーシック蛋白MBP)とは中枢神経のミエリンを構成する蛋白の1つであり、動物に実験的アレルギー性脳脊髄炎を引き起こす蛋白として知られている。

<有髄繊維>
   
(出典)
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/brain/brain/index.html

Q2. 何が原因なのですか?
A2:原因別に1)感染後ADEM2)ワクチン接種後ADEM3)特発性ADEMがあります。1)の感染後ADEMは、発疹性ウイルス(麻疹、風疹、水痘・帯状疱疹など)、ムンプスウイルス、インフルエンザウイルスに感染した後に発症することが多いとされています。他にEBウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス等のウイルス、マイコプラズマ、キャンピロバクター、溶連菌などに引き続いて発症することもあります。一般的には気道、消化管感染症などの後に起こりますが、起炎病原体を同定できないことが多いようです。
2)のワクチン接種後ADEMは、種痘、狂犬病、麻疹、日本脳炎、インフルエンザ、百日咳、ジフテリア、破傷風、ムンプス、B型肝炎等のワクチン接種後に引き続いて発症するものです。
3)の特発性ADEM(idiopathic ADEM)は、感染症やワクチン接種などの病歴がなく、明らかな誘因がないものです。

Q3. 発病する年齢は?
A3:感染後ADEMは小児に発症することが多く、特発性ADEMは若年成人に多い傾向があります。

Q4. わが国における有病率はどのようなものでしょうか?
A4:人口10万人あたり2.5人くらいとされています。

Q5. どのような症状がみられますか?
A5:感染後あるいはワクチン接種後、数日〜4週後(多くは12週後)に急性に発症し、基本的には単相性の経過をとります。つまり、再燃したり、軽快・増悪を繰り返すことはありません。病変部位により症状は多彩ですが、初期症状として髄膜刺激症状(頭痛、悪心、嘔吐、項部硬直、発熱、Kernig徴候など)を認めやすく、通常の脳炎型では髄膜刺激症状以外に、意識障害、痙攣、片麻痺、失語、脳神経麻痺、小脳症状(眼振、小脳失調など)などがみられます。

Q6.診断はどのようにしてなされるのですか?
A6:病初期は他疾患との鑑別が非常に困難であるため、病状の経過から総合的に診断するしかありません。基本的に先行する感染症状およびワクチン接種の有無が診断の助けとなるため、特にくわしい病歴を聴取することが非常に重要です。
なお、一般検査としては、血液検査髄液検査頭部CTおよびMRI脳波検査などを行います。

血液所見では末梢血の白血球増加、赤沈亢進、CRP陽性などを認めます。

髄液所見では髄液圧の軽度上昇、軽度〜中等度のリンパ球優位の細胞数上昇、正常ないし軽度の蛋白上昇、糖は正常範囲です。ただし1/3の症例では髄液細胞数、総蛋白は正常です。またIgGも上昇します。その他ミエリン塩基性タンパク(MBPmyelin basic protein)の上昇(通常早期より上昇) 、ネオプテリンの上昇(活性化マクロファージより産生される) 、髄液オリゴクローナルバンド陽性となることもあります。なお、髄液塗抹検査、培養検査やPCRなどで、病原体は検出しません。

画像診断では、CTにて病変部位で低吸収域を示します。MRIではT2強調画像で高信号域を示します。急性〜亜急性期のADEMはガドリニウム(Gd)による造影効果陽性、造影された病変は活動性を認めます。治療回復後の病変の大きさと数は、減少するか完全に消失します。脊髄MRIでは脊髄病変部の腫大、T2強調画像で高信号域、Gdによる造影効果陽性などを認めます。脳波所見は、4〜6Hzの高振幅徐波を、通常は全般性対称性に認めます。時に片側性あるいは巣状です。

<頭部MRI写真>
   (出典)朝倉書店 内科学第7 p1848

Q7. どのような病気との鑑別が必要ですか?
A7:鑑別診断として感染性脳炎
(急性ウイルス性脳脊髄炎、日本脳炎、マイコプラズマ脳炎、ライム病等)、髄膜炎(小児のコクサッキー、エコー、アデノ、HHV6などのウイルスによるもの、結核性のもの)、脳膿瘍、多発性硬化症(MS)、同心円硬化症(Balo)Reye症候群、SLE、高リン脂質抗体症候群(APSantiphospholipid syndrome)、神経べーチェット病などが挙げられます。中でも急性ウイルス性脳脊髄炎と多発性硬化症との鑑別が重要です。急性ウイルス性脳脊髄炎の中でも単純ヘルペス脳炎は、重篤ではありますが治療可能な疾患であり、早期に発見して抗ウイルス薬を投与する必要があります。MSとの鑑別は困難なことが少なくありません。MSではADEMに比較して全身の炎症所見に乏しく、症状の寛解や再発(時間的多発性)をみることで鑑別します。MSでは経時的MRIで病変の増加を認めますが、ADEMでは増加しないという点で鑑別に有効ですが、初回発作時はCTMRI所見も鑑別には役に立ちません。

Q8. 治療法は?
A8:重症例では水溶性ステロイドパルス療法が第一選択です。メチルプレドニゾロン;1000 mg/日を100 mlの生理食塩水に溶かし2時間程度かけて点滴静注します。これを113日間行ない(1クール)34日様子をみます。症状に改善が見られない場合、さらに12クール追加します。必要があれば、プレドニゾロン0.51 mg/kgの内服に切り替え、漸減します。ステロイド抵抗性の場合は血漿交換、免疫吸着療法(plasmapheresis) 、免疫グロブリン大量療法(IVIGintravenous gammaglobulin therapy) があります。その他、解熱剤による体温管理、適正な輸液管理、痙攣抑制、脳圧管理、呼吸管理などの対症療法が必要です。また神経障害に対するリハビリテーションも重要です。

Q9. 経過や予後はどうですか?
A9:多くは単相性の経過をとり、再発はしないと考えられています。全体としての予後は比較的良く、多くの場合、完全に回復します。麻疹後ADEMでは死亡率が1020%と高く、回復後も重篤な神経学的後遺症を残します。また、感染後ADEMの劇症型で急性出血性白質脳炎(Hurst脳炎)というものがあり、これは症状の進展が速く、重症化します。ステロイドや減圧療法などの治療による生存例もありますが、多くは10日〜2週間で死亡します。

Q10. 日本脳炎ワクチンの接種によりADEMになった場合、麻疹後ADEMのように重症化しやすいのでしょうか。
A10. そのような科学的データはありません。適切な量のステロイドの投与や減圧療法により回復します。しかし、ADEMと気づかずに治療開始が遅れたり、初期ステロイドの投与量が少量であったりすると重症化することがあります。

ADEMとMS  
ADEMは多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)の類縁疾患で、重要な鑑別疾患です。
それでは、多発性硬化症とADEMの類似点と相違点はどんなところでしょうか。

★☆★多発性硬化症とは
1.多発性硬化症の三徴:炎症脱髄グリオーシス(瘢痕化) ADEMとの共通点はどちらも脱髄疾患であることです。
2.経過は、再発/緩解の経過をたどる場合もあれば、進行性の経過をたどる場合もある。良性の経過をたどるものから、急速に進行して生活そのものが困難になる深刻な経過をたどる場合もあります。
3.疫学:日本での有病率は、人口10万人あたり2〜5人ほどであり、女性に多くみられます。約80%が15〜50歳で発症するといわれています。全国で約 5,000人、日本でも緯度が高くなるほど患者数が増え、これを緯度効果いいます。これは多発性硬化症の有病率が赤道から離れるにつれて有病率が 上昇するからです。
4.臨床症状:
@四肢の脱力(筋力低下、巧緻運動障害、疲労感、歩行障害などとして現れる)-運動することで誘発される脱力は特徴的症状である。
A痙縮spasticityを下肢に認めることが多く、しばしば有痛性痙攣を伴い、患者の歩行・日常生活の妨げとなる。
B視神経炎による視力低下・かすみ目・色覚認識の低下が出現するが一側性である場合が多い。
C複視(眼筋の麻痺が原因である)
D感覚症状;異常感覚(針で刺したような、ちくちくする、焼けつくような感じ)、感覚低下(感覚鈍麻、しびれ感、焼けつくような感じ)の両方がある。痛みは多発性硬化症ではよくみられる症状である。
E小脳性失調、膀胱直腸障害、認知機能障害(記憶障害、注意力欠如、多幸感)
5.臨床経過
@再発/寛解型多発性硬化症
A二次性進行型
B一次性進行型
C進行/再発型
6.治療:憎悪時にはADEMと同様まずステロイドパルス療法を試みる。その他は対症療法である。いろいろな治療法を試みられているが説得力に欠けるものが多い。
【ADEMとMSの鑑別点】
1)多発性硬化症(MS)では、ADEMのように多発病変にもとづく症状や徴候が同時に起こることが少ない。
2)髄膜症、傾眠、昏睡発作はADEMを示唆する。
3)ADEMでは視神経病変が両側性で、MSでは一側性であることが多い。
4)ADEMでは脊髄病変が完全な横断性脊髄炎の形をとる。
5)頭部MRI所見:ADEMでは比較的左右対称の広範な白質病変とそれらの病変がガドリニウムによって増強する。MSでは複数の病変が認められ、MRIによる確定診断には4つの白質病変が確認される必要があるが、1つが脳室周囲に位置する場合には3つでよいとされている。

参考文献
1.朝倉書店 内科学第7版
2.ハリソン内科学 第2版

2009年5月28日 
(ウイルス第一部)